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鹿児島地方裁判所 昭和50年(ワ)297号 判決 1979年7月30日

原告

古川正男

右訴訟代理人

保澤末良

被告

谷山漁業協同組合

右代表者理事

野元朝雄

右訴訟代理人

和田久

主文

被告組合は、原告が被告組合に対し出資金一〇万円を支払つたときは、原告に対し、原告の組合加入の申込を承諾せよ。

被告組合は原告に対し金五〇万円及びこれに対する昭和五一年六月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

「原告を出資口数一〇口の組合員として取り扱え」との原告の請求を却下する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告組合の負担とする。

この判決の二項は、原告において金一〇万円の担保をたてるときは、仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は主位的請求の趣旨として「被告組合は原告に対し原告が昭和四二年九月一日以降被告組合の組合員であることを確認する。被告組合は原告に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告組合の負担とする」との判決を求め、右のうち確認を求める部分の予備的請求の趣旨として「被告組合は原告に対し原告が、昭和五〇年八月二五日付をもつてした被告組合への加入申込みを承諾し、右同日以後出資口数一〇口の組合員として取り扱わなければならない」との判決を求め、その請求の原因として、

一  被告組合は鹿児島市谷山塩屋町、上福元町、和田町、平川町区域を地区内とする漁業協同組合であり、原告は被告組合の地区内に住所を有し、一年を通じ九〇日を越えて漁業に従事している者である。

二  原告は被告組合に対し、昭和四二年七月ごろ、組合加入の申込をした。而して水産業協同組合法一八条一項一号及び被告組合定款八条によると、被告組合の地区内に住所を有しかつ漁業に従事する日数が一年を通じて九〇日を越える漁民は被告組合の組合員たる資格を有し、同法二五条により、組合員たる資格を有する者が組合に加入しようするときは、組合は正当な理由がないのにその加入を拒むことができないので、原告は遅くとも同年九月一日から被告組合の組合員たる地位を取得した。

三  右加入申込が存在せず、あるいは口頭によることのため無効であるとしても、原告は被告組合宛の昭和五〇年八月二五日付書面に自己の住所氏名を記載し、引き受けようとする出資口数を一〇口と記載したうえこれをそのころ被告組合に送達して加入申込をしたから、被告組合は原告の右加入申込の承諾をなし、爾後被告組合員として取り扱わなければならない。被告組合定款九条によると、加入申込者は出資金の払込をすることによつて組合員となると定めているが、これは加入申込に対し被告組合が承諾の意思表示をした時に、出資金の不払を解除条件として加入契約が成立する趣旨であつて、加入契約成立とともに原告は被告組合の組合員となつた。

四  ところで被告組合に対しては被告組合の共同漁業権が設定されている公有水面の埋立に伴い、鹿児島県から昭和四八年には(イ)いわゆる一号用地BC地区漁業補償金、昭和四九年には(ロ)一号用地追加補償金が交付され、昭和五〇年にもこれに伴う(ハ)漁業補償金が交付され、いずれも加入組合員並びに被告組合未加入者であつて谷山漁業権擁護対策協議会に加入した者に対し配分された。原告は被告組合への加入申込を承諾されていないので右協議会に加入し、見舞金名下に(イ)については金二三〇万円、(ロ)については金五〇万円、(ハ)については金二〇万円の交付を受けたが、原告の加入申込が承諾されておれば、原告程度の規模の漁業を営む者に対し(イ)については少くとも金八〇〇万円、(ロ)については金一九〇万円、(ハ)については金五〇万円の補償金が交付されたはずのものである。

ところが被告組合代表者野元朝雄および同組合理事らは法律上なんら正当視される理由もないのに、漁業補償金の配分を昭和三八年六月当時の組合員に限定する目的で、昭和三八年六月の被告組合通常総会において組合員の新規加入を制限する議案を提出し、賛成多数で可決されるや、原告その他の加入申込者が組合員資格を有することを知りながら、この決議に依つて正当な理由もなく新規加入申込につき資格審査もなさず、頑強に加入を拒否してきた。

それ故被告組合は民法四四条により右の加入拒絶により原告に生じた精神的損害を賠償する義務があるところ、原告は右精神的苦痛のため金四〇〇万円相当の精神的損害を受けた。

よつて原告は被告組合に対し右金四〇〇万円及びこれに対する「請求の追加的変更申立書」送達の日の翌日たる昭和五一年六月三〇日以降完済まで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求めるとともに、原告が昭和四二年九月一日以降被告組合の組合員であることの確認を求め、右確認請求が認容されない場合には、予備的に、被告組合は原告に対し原告が昭和五〇年八月二五日付をもつてした被告組合への加入申込を承諾し右同日以後出資口数一〇口の組合員として取扱わなければならない旨の判決を求めるため本訴に及んだと述べ、被告組合の各主張に対し、原告が谷山漁業権擁護対策協議会に加入し、その際被告組合主張の念書を差し入れたことは認めるが、右協議会は被告組合が原告ら組合員資格を有する者の加入申込を拒否し、漁業補償金を不平等に配分することを正当化するためにもうけられたものであり、原告は右協議会に加入しなければ見舞金すらも受けられないおそれがあつたためやむなくこれに加入し、念書に署名したものであると述べた。

被告組合訴訟代理人は「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁として、

一  請求原因一項の事実中、被告組合が原告主張にかかる漁業協同組合であることを認め、原告がその主張にかかる漁業を営む者であることは不知。

二  同二項の事実中、水産業協同組合法及び被告組合定款の規定は認め、その余の事実は否認する。

三  同三項の事実中、原告主張の加入申込がなされたことを認め、その余の事実は争うと述べ、原告の加入申込を承諾しなかつた正当理由の主張として、昭和三七年ごろより被告組合の共同漁業権が設定されている公有水面の埋立とこれに伴う漁業補償問題が発生し、右補償金目あてに被告組合への加入申込者が激増し、混乱を招来するおそれがあつたので、昭和三八年六月二六日の被告組合通常総会において右埋立並びに補償問題が解決するまで被告組合への新規加入を認めないことに議決されたものである。そして被告組合への未加入者に対しても漁業補償金は実情に応じて配分することとして昭和四一年三月三一日の被告組合臨時総会において谷山漁業権擁護対策協議会を設立し、未加入者も実態に応じて右協議会への加入を認めることとし、これに補償金を配分することとしたところ、原告は、昭和四七年九月五日、右協議会に加入したと述べ、原告主張の精神的損害に対しては原告は、昭和四七年九月五日、右協議会に加入した際、漁業補償金の処理については右協議会並びに被告組合の決議を遵守する旨念書を差入れた。すなわち原告は漁業補償金の原告に対する分配を含めてその処理については右協議会並びに被告組合の総会等の決議に従う旨申出て、かつ右協議会の決議に従つて漁業補償金の分配金をそのつど受領しているのであつて、もはや右漁業補償金の分配金の不足を理由に被告に対し慰藉料の請求をする権利はないと述べた。

証拠<略>。

理由

一被告組合が鹿児島市谷山塩屋町、上福元町、和田町、平川町区域を組合の地区とする漁業協同組合であることは当事者間に争いがない。而して原告本人尋問の結果によると、原告は昭和二七年一二月ごろから被告組合の地区内である谷山塩屋町に住所を有し、爾来現在に至るまで一年を通じ九〇日を越えて漁業に従事しているものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。又水産業協同組合法(以下水協法という)一八条一項一号によると、漁業協同組合の地区内に住所を有しかつ漁業に従事する日数が一年を通じて九〇日から一二〇日までの間で定款で定める日数をこえる漁民は漁業協同組合の組合員たる資格を有すると規定されているものであるところ、被告組合が水協法の右規定の範囲内において、被告組合の地区内に住所を有しかつ漁業に従事する日数が一年を通じて九〇日を越える漁民は被告組合の組合員たる資格を有する旨を定款で定めていることは当事者間に争いがないので、以上の事実により原告が被告組合の組合員たる資格を有することは明らかである。

原告は被告組合に対し、昭和四二年七月ごろ、組合加入の申込をしたが、水協法二五条によると、組合員たる資格を有する者が組合に加入しようとするときは、組合は、正当な理由がないのに、その加入を拒んではならないと規定されているから、原告は右加入申込によつて被告組合の組合員たる地位を取得したと主張するので按じるに、原告本人尋問の結果によると原告は昭和三八年末ごろ被告組合理事である訴外杉尾親義に対し口頭で加入申込をして以来、昭和四〇年、同四二年と何度かにわたつて被告組合代表理事に対し、いずれも口頭で、加入申込をしたことを認めることができ、右認定を動かすに足る証拠はない。然しながら、成立に争いのない甲一号証(被告組合定款)によると、被告組合は「この組合の組合員になろうとする者は、氏名又は名称、住所または事業場の所在地および引き受けようとする出資口数を記載した加入申込書を組合に提出しなければならない」と定款で定めて、加入申込は書面でなすべきものとしており、右定款の定め自体は、加入申込者の加入意思の存在を明確化しかつ被告組合の事務の適正を期するためのものと解せられて合理性を有するから、いわゆる協同組合加入自由の原則を制限するものではなく、それ故にかかる定款の定めを有する被告組合に対し口頭でなした原告の前認定加入申込は無効であつて、これによつて原告が被告組合の組合員たる地位を取得するに由ないと言わざるを得ない。それ故原告の請求中、原告が遅くとも昭和四二年九月一日以降被告組合の組合員たる地位を取得したとしてもその地位の確認を求める部分は失当として棄却すべきである。

二次に右確認を求める請求に対する予備的請求について検討するに、原告は、口頭による加入申込が無効であるとしても、被告組合宛の昭和五〇年八月二五日付書面に原告の住所氏名を記載し、引き受けようとする出資口数を一〇口と記載したうえこれをそのころ被告組合に送達して加入申込をしたと主張するところ、右事実は当事者間に争いがない。これについて被告組合は、原告の加入を拒む正当理由として、昭和三七年ごろより被告組合の共同漁業権の放棄に伴う漁業補償金の分配金目あての加入申込が激増したので、混乱を避けるため昭和三八年六月二六日の被告組合通常総会において、補償問題が解決するまで新規加入を認めない旨議決されたと主張するので、右主張につき検討を加える。

まず被告組合主張の議決がなされたことは当事者間に争いがない。被告組合の右主張によると、新規加入を認めない旨の通常総会の議決がなされた理由は、右のとおり、昭和三七年ごろより、共同漁業権放棄に伴う漁業補償金の分配金目あての加入申込の激増による混乱回避のためであると言うところ、被告組合代表者本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したものと認める乙一号証(被告組合昭和三七年度通常総会議事録)によると右事実を認めることができる。しかして共同漁業権は漁業法により漁業協同組合又はその漁業協同組合を会員とする漁業協同組合連合会にのみ免許されるものであり(漁業法一四条八項)、漁業協同組合の組合員は当該漁業協同組合の定める漁業権行使規則に則つてこれを行使し、漁業を営む権能を有するにすぎないから(漁業法八条)、共同漁業権放棄の対価として取得した漁業補償金は組合財産に帰属するものであつて、当然には個々の組合員、準組合員に帰属するものではない。そして右の如き漁業補償金の組合員、準組合員への配分の手続は水協法四八条の剰余金の配当手続によるべきものと解せられるけれども、漁業補償金は総会の議決に基き(水協法四八条、被告組合定款四〇条、四四条)組合財産に属するものの滅失の対価として取得したものであつて、経済事業体としての協同組合が事業活動による損益取引の結果取得した協同組合の剰余金とは異なるものであるから、これが配分に際しては剰余金の配当に関するいわゆる事業利用分量配当の原則あるいは出資配当についての定款所定の配当率(水協法五六条二項、被告組合定款五五条)にとらわれることなく、実際の漁業収益の損失等を考慮して適宜公平な配分をなすことが可能と言わねばならない。すなわち被告組合定款五五条によると、被告組合の剰余金の配当は事業利用分量配当と出資配当とから成つていて、前者については「その事業年度内において取扱つたものの数量、価額その他事業の分量を参しやくしてこれをする」と定めているので、組合員ではあつても被告組合のごとき出資組合の事業を利用しない者に対しては全く配当をしなくても定款違反とはならない筋合であるのに、出資配当は、如何に漁業補償金のみを目的として加入した者であつて全く事業利用の意図がない者であつても、これに対する配当を除外することは許されないものである。このように、出資組合たる被告組合において全組合員に対する配当が必要とされるのは出資配当のみであるから、同じ配分手続によることが求められるとは言つても、これと全く性質を異にする漁業補償金の配分が、総会の議決によつて、組合員中特定の者、例えば補償問題が生じていないときに被告組合においで組合加入を勧誘したのにこれに応じないでいたのに、補償問題が生じたからといつて、みづから共同漁業の内容をなす漁業によつて収益をあげていたことに基き、その分配金取得を目的に加入申込をなし、その後も組合の事業を利用する意図を有しないような組合員あるいは共同漁業権放棄の当時すでに組合員であつても、実際に漁業収益を得ていなかつた漁民(最高裁、昭和四八年一一月二二日第一小法廷判決参照)を除外してなされても、これは水協法あるいは被告組合定款に違反するものではなく、漁業補償金の前記性格に反するものでもない。そうして漁業協同組合は、個別的には小規模で、財産的基礎の脆弱な漁民の個別生産・消費活動も人的協同関係に組織することによつて維持発展せしめることを目的として構成される協同組織体であつて、社会的経済的弱者である組合員の加入の自由は、もちろん絶対的なものではないにしても、協同組合存立の重要な要素である(水協法二五条)。そして漁業補償金の分配金目あてに加入した組合員に対し右補償金の配分を行うのが不適正な事情があれば、これに対する配分を行わないことも許されること前述のとおりであるから、組合員たる資格を有する者の加入申込が右の分配金目あてのものであるからといつてこれを拒否することは、一般には、加入制限の正当な理由とはならない。しかしながら、かくては、漁業補償金の組合員への配分手続自体は剰余金の配当手続によるべきこと前述のとおりであつて、水協法四八条、被告組合定款四〇条により、総会の通常議決を経るものであり、一方組合員はその出資口数に関係なく一人一個の議決権を有するところから(水協法二一条一項)、協同組合の事業を利用する意図のない、分配金目あての加入組合員が多数を占めて、漁業補償金の配分がとうてい公平を期し得ない結果となることも危惧されないものではない。本件においても、前掲乙一号証及び被告組合代表者本人尋問の結果によると、右の危惧が組合員の間に強く存在していたことを認めることができる。しかし補償金の配分を受ける者を、例えば共同漁業権放棄当時の組合員に限定しあるいは放棄以後配分案議決以前の任意の時期の組合員に限定することがその適正な配分のため必要な事情があつで、そのため、補償問題の解決に至るまで当分の間新規加入を承認しない旨の議決がなされたものであるなら、かかる議決は、前述のように加入制限の正当理由とはなり得ないものの、なおそれ自体補償金配分決議の一環たるの効力を有すものと解せられるので、これによつて右の危惧から或る程度免れることができるのみでなく、本件においては、次のとおり、分配金目あての組合員によつて配分案議決が左右される事情も実際には存在しなかつたと言わざるを得ない。すなわち、被告組合定款四一条によると、総会は正組合員の二分の一以上が出席しなければ議事を開いて議決することができず、この場合、書面または代理人をもつて議決権行なう者はこれを出席者とみなすこととし、同四三条によると、総会の議事は出席した正組合員の議決権の過半数で決し、可否同数のときは議長の決するところによるのである。而して<証拠>(以上いずれも被告組合総会議事録)、<証拠>(以上いずれも漁業補償金配分額集計表もしくは配分計算書または計算書案)によると、被告組合は新規加入を認めない旨の前掲総会の議決により組合員となり得ない者に対しても漁業補償金を適宜配分することとし、昭和四一年三月三一日の臨時総会において谷山漁業権擁護対策協議会を設立し、未加入者も実態に応じて右協議会への加入を認め、これに補償金を配分することとし、これによつて原告を含む九五名が、未加入者であるのに、見舞金名下に補償金の配分を受けたこと、右の九五名の中には単なる漁業従事者も含まれているものであること、昭和三八年乃至昭和五〇年当時の被告組合の議決権を有する組合員は一四七名乃至三八二名であつて、その総会への出席率は書面または代理人をもつて議決権を行なう者を含めて平均八八パーセントであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうすると、右の九五名の全てが仮に補償金目あての加入申込者であつて被告組合において危惧する態様で議決権を行使するとしても、これのみによつては未だ配分案の議決を左右することができなかつたことが明らかである。これを要すみに、漁業補償金の分配金目あての加入申込の激増による混乱回避のためになされたところの、新規加入を当分の間認めない旨の被告組合通常総会の議決は、ひとつには組合加入を認めると全ての組含員に対し例外なく分配金を支払わねばならず、かつそのような分配金目あての加入申込が激増し総会において旧組合員の適正な権利保護が損われるとの誤つた危惧によつて立つものであつて、これによつて原告の加入の自由を不法に制限したのである。而して<証拠>によると、右の総会の議決は、被告組合代表者理事野元朝雄及びそのたの理事において、被告組合の右のような危惧については、すでに述べたように、尚他にとるべき手段がなかつたものではないのに、性急にその旨の議案を提出して成立せしめたものであることが認められる。

以上のとおり、新規加入を認めない旨の被告組合通常総会の議決は原告の加入申込を拒否する正当理由とはならないものである。

ところで、加入の効力発生時期については水協法に特別規定が存しないのでこれを被告組合定款についてみるに、被告組合定款九条は加入申込者は出資の払込をすることによつて組合員となると定めていることが認められるので、かかる場合加入申込者は出資全額(出資払込に当てるべき予納金額)の払込を完了した時に組合員たる地位を取得するものと解すべきである。被告組合定款の右の定めは出資の払込を確実に実行せしめる趣旨に出たものと解せられ、水協法二七条二項が出資の払込を怠つたことを組合員の除名事由と規定していることによつて効力を妨げられることはない。また原告主張のように、加入申込に対し被告組合が承諾の意思表示をした時に、出資金の不払を解除条件として、加入契約が成立すると解することは、協同組合加入自由の原則により忠実な解釈ではあるが、協同組合加入の自由と言つても前述のように絶対的なものではないうえ、やはりこれは被告組合定款の右の定めに則した解釈ではないと言わざるを得ない。

そして被告組合定款一九条によると被告組合に対し加入申込者が出資一口につき払込むべき金額が金一万円であることが認められる。

それ故被告組合は、原告が被告組合に対し一〇口の出資金一〇万円を支払つたときは、原告に対し、原告の加入申込を承諾する旨の意思表示をなすべき義務があるので、原告の予備的請求中被告組合に対し原告の加入申込の承諾を求める部分は、原告が被告組合に対し右の金一〇万円を支払うこととの引換えにおいて、これを認容すべきものである。

原告はさらに、被告組合は原告を出資口数一〇口の組合員として取り扱わなければならないとの確認判決をも付加して請求しているが、ここに言う出資口数一〇口の組合員たる地位は右の意思表示を命じる給付判決に基き将来発生せしめられる法律的地位そのものであつて、右の給付請求が認容せられた以上、もはやその確認の利益を欠くものと言わざるを得ない。よつて右請求はこれを却下する。

三次に原告の精神上の損害賠償請求につき按じるに、被告組合代表者野元朝雄その他の理事が新規加入を認めない旨の議案を総会に提出してこれを成立せしめ、これによつて原告の加入申込を正当な理由なく拒絶してきたことはすでに詳述したとおりであるから、被告組合は、民法四四条により、原告に生じた精神上の損害を賠償すべき義務がある。而して原告は右精神上の損害の一つとして、原告は被告組合への加入を認められなかつたので谷山漁業権擁護対策協議会に加入し合計金三〇〇万円の見舞金を得たが、被告組合に加入を認められておれば少くとも合計金一、〇四〇万円の分配金を得られたと主張する。しかし新規加入を認めない旨の被告組合の総会の議決は、弁論の全趣旨によると、原告主張のように、漁業補償金の配分を少くともその議決当時の組合員、準組合員に限定する目的をもつてなされたものと認められるところ、前述のように、そのように限定することが補償金の適正な配分のため必要な事情があつたのなら、かかる議決そのものは補償金配分決議の一環として法律上の正当性を有し、それ故加入拒絶による原告の精神的損害から補償金配分額の多寡を原因とするものはこれによつて排除さるべきものとなる。そして先に詳述したように、分配金目あての新規加入組合員によつて補償金の配分案議決が左右される事情は実際には存在しなかつたとは言え、右協議会に少くとも九五名もの者が加入し、さらに<証拠>によると単なる漁業従事者を含め家族全員が加入申込をなす空気すら一部にあつて、被告組合の理事の中に補償金目あての大量新規加入に対する虞れを生じていたことが認められること、並びに新規加入者の必ずしも全てに補償金を配分する法律上の必要性はないとは言つても、右各証拠によると、その当時被告組合理事においてはこの法理を知らなかつたことが認められるうえ、実際にはこのことは実行困難でもあつたことは推察するに難くない。そうすると被告組合の右の総会議決は補償金配分決議の一環として有効であり、原告は補償金配分額の多寡あるいはこの配分に預れなかつたことを被告組合に対して非難することはできない。しかしながら原告が被告組合の加入拒絶によつて組合の事業を利用する可能性を害せられたと考えられること、その他前一、二項認定の各事実を考慮すると、被告組合の加入拒絶により、原告は金五〇万円相当の精神的損害を蒙つたと解するのが相当である。

よつて原告の損害賠償請求は被告組合に対し右金五〇万円及びこれに対する「請求の追加的変更申立書」送達の日の翌日たる昭和五一年六月三〇日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の部分を失当として棄却すべきである。

四よつて民訴法八九条、九二条本文、一九六条一項に則り、主文のとおり判決する。

(橋本喜一)

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